Stephen Oppenheimer

2008/4/19

Out of Eden
The peopling of the world

Copyright 2003
* * * * * * * 2008/2/29読書済み
おすすめ度★★★★★

書かれていること

昨年(2007)本屋で『5万年前』というタイトルの本を見つけて購入しました。 原題は「Before The Dawn」です。現代の人類は、5万年前にアフリカ大陸を脱出した150人あまりの集団が 全世界に広がったものと断定しています。なぜそういえるのか? それは、2003年に遺伝子学では、 ヒトゲノムのDNAの全配列が決定(マッピング)したことから可能になった研究によります。

DNAは世代にわたり、徐々に変化してゆきます。人類が書いた記録は、5万年前の物はありませんが、 DNAが世代の記録として残されているのです。初版が10万年前に出版され、現代は第50版という感じでしょうか。 初版に近いものが、アフリカに残っていて、第10版に近いものがアジアに見つかる、第20版がオーストラリアにあり、 第30版がヨーロッパにあり、第40版がアメリカ大陸にあるという具合です。

「Before The Dawn」の感想はこちらです。

この 「Out of Eden」も同じように、ヒトゲノムの解析と考古学の成果を重ねて、 我々の祖先は、アフリカから来て全世界に広がっていった様子を書いています。朝日新聞の書評で、 「Out of Eden」も「Before The Dawn」もヒトゲノムの分析をとおして、現代人の祖先はアフリカ人だと言っているいることを知りました。書評では、「Out of Eden」と「Before The Dawn」は同じ結論を言っているけれども、紹介の仕方が全然違うとあったので、ではということで 両方を読んでみました。「Out of Eden」は極力、ロジカルに理論的に事実を書こうとしています。巻末にある注記も大量です

Before the Dawnは、ジャーナリストの視点も入っていて、人類はいかにして言語を習得して発達させてきたのかという記述が多いので、非常に刺激的でした。

Out of Edenの内容

本文の直前にある世界地図に書かれた、現代人類の移動の矢印がサマリーです。本書を読むためには、 この地図を常に参照していれば、各章の話題が明確にイメージできます。この地図だけ見ておけば、 この本は買う必要がないくらいです。(内容といいながら、私の感想、コメントを勝手に入れていますので、 そのつもりで読んでください。)

150,000年以上前に、現代の人類はアフリカに住んでいました。この人たちが現代人の祖先と言う説と、地球上の複数の 箇所で現代人が発生したという説が100年以上議論されていましたが、DNA鑑定により、アフリカから派生した説が今では定説になっています。

では、アフリカを出たのは、約12万年以上前か、それとも5万年から10万年程度前なのかという課題がありました。 この本では、12万年前にエジプトに向かった人々は90,000前に絶滅したという説です。現代人が、歩いてアフリカから アラビア半島の南端を渡ったのが、85,000年前としています。氷河時期と、現代人が大陸を横断した時期に密接な関係があります。氷河期には、海面が今よりも100mは低くなっていて、大陸間を歩いて渡れたからです。

現代人がインドを西から東に横断して、インドシナ半島にたどり着いたのが、75,000年前。地球は氷河期と温暖な気候を 数千年単位で繰り返していますが(いまも例外ではありません)、食料の確保には、あまり狩猟には頼れなかった事情があります。 獲物が少なく、人間が増えてきたからです。といっても地球上には、今の0.00001倍の人しかいませんでしたが(今が異常!)。 食料はもっぱら、海岸の貝と魚が主なものでした。農耕を始めたのは、10,000ほど前なので、あと65,000年後です。

魚介類を食べることが、人々を海岸に沿って、インドを西から東に移動させました。ある地域で人が150人を超えると、 そこにとどまる人々と、食料を求めて移動する人々と分かれていったと思われます。アラビア半島の南端からこのように 人々は10,000年かけてインドシナ半島にたどり着きました。更に10,000年かけて65,000年前にオーストラリアまで渡って いきました。氷河期は海面が極端に低くなった時期があるので、インドシナからオーストラリアまで、ほぼ歩いて渡れたのです。

内陸には、河にそって北上したようです。東ヨーロッパにたどり着いたのが46,000-50,000年前。インダス河を 北上していったのが40,000年前。40,000年前には、中国の東側からヒマラヤの北側に到達した人々もいたようです。

20,000 - 30,000年前に中央アジアにいた人々のうち、西はヨーロッパに向けて、東はシベリア、ベーリング海に向けて 移動した人々がいました。

22,000 - 25,000年前に、いよいよ人類はシベリア・ロシアから、アラスカ・アメリカに歩いてわたります。氷河期で、 海面が今から100メートルも下がっていたとすると、ベーリング海は歩いてわたれたはずだからです。

南アメリカにどうして人が住むようになったのかといえば、北アメリカからとことこ歩いていった人々がいたからです。15,000 - 19,000年前にはメキシコの北側に迫ります。更に12,500年前には、 南下して南米のチリに到達しています。5万年以上も前にアフリカを出た我々の祖先が、4万年かけて地球上に広まっていったのです。

感想

生きている意味、人間とは何か?人間とはどういう動物なのか?という大きな疑問に答えてくれているようで、 この分野にとても興味を持ちました。そして感じました。

人類はひとつ。

戦争などしてはいけない。

100年、1,000年、10,000年と、このさきも人類に生き続けてほしい!

その視点で、われわれ一般市民、そして政治家、世界の人々が協力すべき!

温暖化が危機として議論されているが、10万年の歴史を振り返ると、温暖化の期間は短くて(数100年から1,000年)、温暖化の反動でやってくる氷河期(数千年続く)をいかに乗り越えるかが課題のようだ。そのためにも、地球の温暖化は阻止すべき。