SARA WATERS

2005/5/4

FINGERSMITH

* * * * * * *Copyright 2002
おすすめ度★★★★★    (2005/2/20読了)

ストーリー:

物語は、1840年代のロンドンです。主人公は2人の女性、16歳のSue Trinder と
同じ年のMaud Lilly。タイトルのFingersmithとはスリのことでしょうか。

SueとLillyは対照的な生まれと育ちで、Sueは泥棒一家、Lillyは良家の育ちです。SueはMrs. Sucksby から泥棒学というか、泥棒が持ち込んだ物を分解して売りさばく家業を手伝っています。

 Lillyは親が残した大きな屋敷に変わり者の叔父にLadyとして育てられ、秘書として叔父のために 蔵書の整理や本の朗読をしています。

 Sueの育ての親Mrs. Sucksbyと懇意のGentlemanというあだ名の若者 Richard RiversがLilly達をだまして財産を分捕ろうとSueをLillyの所に送り込みます。SueもLillyも いまの境遇に囚われていると感じていて人生を変えたいと願っています。物語が進むにつれて彼らの 人生は大きく変化しますが、それは思わぬ方向にすすんでいきます・・・

この物語は大きく3部で更正されています。ページも大体1/3ずつです。
第1部は、Sueの目から見たストーリー。
第2部は、Lilly側からのストーリー。
第3部が、Sue側からのストーリーです。

第1部と第2部は同じ出来事が2度語られることになりますが、Sueの話を聞いた後で、Lilly
の話を聞くと、読者は第2部で巧妙に2人の少女の生い立ちのミステリーを知らされます。


感想:
このミステリーがすごい2005(2004年12月発売)の海外部門で堂々と1位になった作品です。 おかげで書店に沢山並んでいたので購入しました。ストーリーが良く出来ているので、 高く評価されることは納得できます。 作者のSarah Watersはこのミステリーがすごい2004の海外部門でも1位なので2年連続ですね。 このミスの評価では昨年の作品よりは読み易いそうです。

 British Englishで少し読みにくいと感じましたが、ほんの少しです。コンマを多用しているので 1つの文章は長くなる傾向がありますが、慣れるとイメージがわきやすいと思います。描写も丁寧ですが、 ちょっとしつこいかなとも感じました。シドニー・シェルダンが書き直したら分量が半分ぐらいになると 思われますが、これはこれでゆっくりと読むように書かれています。ちょっと違うと言われそうですが、 シェルダンのMaster of the Gameのような展開に似ていると感じました。550ページ近くの大作なので、なんとか毎日 時間をとって、50ページのペースで読み続けましたが、結構労力を必要とします。

 この本はVictorian時代(この物語は1840年前後)のロンドンをとてもよく表現しています。 160年ほど前のイギリスの話しなので「歴史ミステリー」の分野だそうです。Sueの育った、 軽犯罪の仕組みの細かい描写、公開処刑の様子や精神病院などなどです。私は2年間イギリスの 田舎に住んでいて、Londonにもしばしば行ったので、物語の情景がとてもよく浮かんできました。

作者のSarah Watersは1966年Wales生まれです。English Literatureを専攻してPh.D.を獲得して います。英語学習の中・上級者向けの本だと思いますが、ぜひ一度チャレンジしてください。 イギリスが好きな人は読破できると思います。

 

以下は掲示板にいただいた「Fingersmith」に関する投稿です。

投稿時間:2005/05/03(Tue) 17:10
投稿者名:Sinka
URL :
タイトル:
Fingersmith 読了
 
こんにちは、みなさん。

Fingersmith (Sarah Waters) (FP2002, 36行/頁, p548) を読了しました。

Sarah Watersは「Affinity」で懲りたのですが、特に読むべき本も見つからないのと、 退屈したけれども少しはSarah Watersの文章にも慣れたので、そのまま全てを止めてしまうのはもったいないし、 松澤さんが星5つで、Fingersmithを推薦しているので、半分、退屈を覚悟で読み 始めました(^^;;。実は、この本も退屈だったら、一体何処が面白いのか、 松澤さんに解説をお願いしようとも思っていました(^^)。

二人の孤児が主人公です。おきまりの金持ちと貧乏、紳士とアウトロー環境下で育った 二人・・、が、展開は・・。

Part 1:私にとって、ここは特に気を引くような内容ではありませんでしたが、この作者の文体に 慣れたせいもあるかもしれませんが、読みやすく出来ています。でも私好みではなく、 ちょっと退屈気味でした。ところが、そのパートのホントに最後の最後、174頁に「エッ!!」と 驚く、まさに驚愕の展開が待っていました。しかも、Part 1を読み返しても、どうしてもそういう展開にはならないのです。従って、その理由を 知るためにはどうしてもPart 2を読まなくてはならないように作ってあります(^^)。つまらなければ、そこで止める ところですが、いやいや、そのPart 1最後の展開はこの小説の要であり、ウルトラ級的な面白い展開なのです。だからPart 2 はどうしても読まざるを得ないのです(^^)。

Part 2:その理由が明らかとされていきます。また、Part 2は非常に動きがあり、とてもよくできていると思います。しかし、なお、Part 1最後の展開にいたるその理由としては、動機がまだ弱く感じていました。そして途中から 私はあることを推定するようになりました。そして、Part 2の最後の頁でその真の理由が明らかとなります。その内容は、そう、それはホリエモンさん 流に言えば、まさに私にとって「想定内」でした。が、エキサイティングな内容です。 まさに、真の動機、真実が語られます。そう、Part 1最後の展開の理由として、十分な動機が・・。ここまで来るともう止まらない感じとなります(^^)。

Part 3:ここでは一人の孤児の最悪の事態が展開していきます。何とかそれから脱した後も、 彼女のみが真実を知らないが故に悲劇的・絶望的な展開が待ち受けています。このパートは 迫力があり、一気に読ませます。

確かに、この本はお薦めの一冊です (^^)。

 
投稿時間:2005/05/03(Tue) 21:17
投稿者名:大澤遼
URL :http://osawa-ryo.ameblo.jp/
タイトル:
Re: Fingersmith 読了
 
Sinkaさん、今晩は。

|Sarah Watersは「Affinity」で懲りたのですが

Sarah Watersは「Affinity(半身)」と「Fingersmith(荊の城)」の二冊を、 このミステリーがすごい!で二年つづけてNo. 1になったので、ただそれだけで、買ったのですが、両方ともいまだに読めていません。 (^_^; 特に、「Affinity」は第一章は悪くなかったのですが、第二章にはいりロンドンの 監獄にシーンになってからは、あのどこか一種独特な、閉鎖空間にいる女性たちの はなついやな雰囲気になじめず(タイプは違いますがある意味桐野夏生的な雰囲気といおうか)、 現在挫折中です。また、「Fingersmith」も「Affinity」にくらべれば癖は少ないのですが、 少し読みにくい文体(日本でいえば高村薫に似ている?)が邪魔をしてしまっています。 (これだったら、彼女がみずから心の師匠としてあおぐディケンズを読んだほうがよかった のかも知れない、と感じています)

でも、「Fingersmith」にはどこかゾクゾクするものを感じていますので、英語の体調の いいときに再度挑戦してみようとおもいます。

さて、私のほうは、ポール・オースターの「In the Country of Last Thing(最後の物たちの国で)」を読み終えました。

「人々が住む場所を失い、食物を求めてさまよう悪夢のような国(AMAZON.co.jpより)」 を舞台にした物語なのですが、人々との出逢いが非常に魅力的な小説です。ただし、 最後が少し拍子抜けなのと、彼の最高傑作である私がおもっている「Moon Palace(ムーンパレス)」を読んだ直後だったので、これは仕方がないことなのですが、 少し物足りないものを感じてしまいました。

 
投稿時間:2005/05/03(Tue) 23:04
投稿者名:Sinka
URL :
タイトル:
Re^2: Fingersmith 読了
 
こんにちは、大澤さん。

>「Affinity」は・・ロンドンの監獄にシーンになってからは、あのどこか一種独特な、 閉鎖空間にいる女性たちのはなついやな雰囲気になじめず・・また、「Fingersmith」も 「Affinity」にくらべれば癖は少ないのですが、少し読みにくい文体・・でも、「Fingersmith」 にはどこかゾクゾクするものを感じていますので、英語の体調のいいときに再度挑戦して みようとおもいます。

いやー、お仲間ですね(^^)、「Affinity」は私もなじめず、200頁くらいで読むのを諦めました。 でも、「Fingersmith」はだいぶ雰囲気が違いました。実際、Part 2, 3はかなりの迫力があり、テンポも快調で、且つ、重厚です。

ただ、「Affinity」は監獄、「Fingersmith」では精神病院が一つのポイントとなっています。 彼女はそういう所を調べたことがあるのでしょうか、あるいは何かそういうものに特別興味が あるのか・・。まさかそれらの経験があるということではないと思いますが・・。彼女の 精神病院での記載は、昔の陰惨な精神病院のあり方を想像させます。ひょっとして今の精神病院 にもそれに近いのがあるかも・・などと思うと、ゾッとしますが・・。そうでないことを 祈りたいものです。