Michael Ashby & John Maidment

2007/6/17

Introducing Phonetic Science

Copyright 2005     Cambridge University Press
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おすすめ度★★★★★

2007/6/17読書

Michael Ashby教授は、2007年5月に、日本に講演に来たときに、外語大での講演に参加しました。そこで、 この本の存在を知りamazonから購入しました。 音声学の学生の必須の教科書だと思います。発音に興味のある方も、『英語耳』や『単語耳』の発音の説明について、より納得が得られるので、ぜひ読んでほしいと思います。

内容

 

1 Introduction to speech

IPA (International Phonetic Alphabet)の紹介

単語の中の音節(シラブル)について

波形→山は、シラブルの数だけある。谷は子音のところ。たとえば Peter Piper picked a peck of pickled pepper.の波形を示し、波形の山がシラブルの数だけ、つまり12個現われることが示される。 

Exercise 1.9 2つの波形のどちらが、potato, pepperかを選ぶ。

2 Voice

無声・有声・子音・母音の発音

声帯のしくみ。有声音では、声帯を振動させるために、声帯は閉じる。

Whisper: ささやくときも、有声と無声の違いが作られている。有声部分では、声帯を閉じて完全に振動させる代わりに、 声帯を半分だけ閉じて、Noiseを作り出す。この方法で、有声部分を無声部分と区別する。たとえば、 [afa]と[ava]をささやくと、無声[f]・有声[v]を区別していることが分かる。

有声子音、[v]の波形Figure 2.7は、正弦波(有声・声帯の振動)に細かいたくさんの波(くちびると歯の間を流れる空気が作る雑音波)からできている。 (日本人は有声子音の概念を把握するのが、きわめて困難です。)

3 Place of articulation

口の調音する部分の説明があります。舌も前から、Tip(先端)、Blade、Front(前部)、Back(後部)、Root(根元)と呼んでいるのは実用的です。

口を横から見た断面図は、首の骨まで描かれていて、リアルです。

4 Manner of articulation

Airflow, pressure, turbulenceの原理と、発音方法を結びつけて説明します。

Stops: oral and nasal, plosive and affricate [m][n][ng]

Plosive: 破裂音、Figure 4.5のHoldのあとの急なReleaseがある。 [p][t][k] 息をためるために約100m secondsの無音部分が生じる。
 Affricate: Figure 4.6のHoldのあとになだらかなReleaseがある。 muchの[ch]、judge[dg]

無声・有声子音、Figure 4.9の[s]上、[z]下の波形の比較が良い。

5 Vowels

母音は、声帯の振動と、口の形が作り出す響きで発音される。長いガラスのコップに水を入れると、水が増えるにつれて、 音が高くなる。水の上の空間が変わり、響き(resonance)が変わるから。

人の母音は、波形を調べると、横軸に周波数、縦軸に音の大きさの図を描くと、3つか4つの山が現われます。七番周波数の低い山は250 - 500Hzです。これは、声帯からくちびるまでの距離17cmが1/4波長で共鳴したときの周波数で、F1となずけます。第1フォルマントです。 口が完全な筒だとすると、その倍音は3/4波長で、1500Hzになります。これをF2、第2フォルマントと呼びます。さらに倍音は、 1-1/4波長で2500Hz、F3、第3フォルマントです。フォルマントの波長は、[i][e][ou]などの母音ごとに大きく異なり、母音の特徴になります。

英語の2重母音、diphthongたとえば[ai]は[a][i]では、F1が同じで、F2の周波数がなだらかに上昇、下降する特徴があります。 ネイティブは[ai]を一つの音と認識します。このことからも、日本語のように[ア][イ]という2つの母音がある発音とはまったく異なります。

Exercise 5.5は seet / seed、 sight / sideの音声の波形です。 無声子音の前の母音が短く、有声子音のまえの母音は長めになります。つまり、母音の持続時間 seetとsightが短く、 seedとsideが非常に長くなります。これを波形で見せられると、理屈では分かっていても、「こんなに違うのか!」と非常に衝撃的です。

6 Voice II

Aspiration

母音+無声子音、ice[ais]、 母音+有声子音、eyes[aiz]を分析。違いは、語尾の[s][z]ではない。[ai]の長さが違うために、 聞き手は、2つの単語を区別している。下の図は同じ長さで発音した、2つの単語のそれぞれの音の長さの比較。Figure 6.4。eyes[aiz]の[z]のところは、ほぼ[s]音で、声帯のふるえがほとんど無い。
ice[ais]   [a a i i i s s s s s s s s]
eyes[aiz] [a a a a i i i i i i i s s s]

7 Airstream mechanisms

6章までは、息の使い方はほぼ均一で話を進めたが、7章では息の使い方 Airstream を説明。

8 Speech sounds and speech movements

7章までは、個別の音の発音を調べた。8章では、2つの音が連続するときの発音方法。

同じ[t][t]でも、次の音により、くちびるをまるめる[t]とまるめない[t]がある。

同じ[i]の母音の長さとフォルマントは、bit[bit]とbuilt[bilt]では、かなり異なる。理由はbuiltでは、次の[l]の口の形を 作りながら[i]を発音するから。波形で見ると、bitの[i]のながさは、140m sec、builtの[i]のながさは、240m secとほぼ倍、F2も下方に周波数が変化。でも母音部分の発音記号はどちらも[i]。

2つの破裂音(plosive)がactのように[kt]と続く場合、[k]の息を圧縮して解放・破裂するタイミングと、[t]の息を圧縮してから 解放・破裂するタイミングが少し重なる。 Figure 8.7。話者は[k]に対しても、息を圧縮して解放・破裂させるが、聞き手には[k]の破裂音は通常聞こえない。

2つの破裂音(plosive)がbackgroundのように[kg]と続く場合、[k]に対しては、息の解放・破裂が行われず、[g]に対しては、 息の圧縮が行われない。その結果、1回の息を圧縮して解放・破裂する動作で[kg]が発音され、[k]は間だけがあり、[g]の音だけが聞こえる。

(この章は、『英語耳』や『単語耳』の子音が連続するときの発音方法の説明に関連します。)

9 Basic phonological concepts

音節についての章です。英語の音節・Syllableは、3つの部分から成り立っています。
 「onset」+「nucleus母音」+「coda」

たとえば、skinは、[sk]onset+[i]nucleus母音+[n]codaです。

よく言う、韻を踏むのは、「nucleus母音」+「coda」の部分です。day, bayのように。

(『単語耳]第2巻は、 2000単語に対して、「onset」+「nucleus母音」を徹底的に解明しました。)

英語では、codaの部分に以下のように、ゼロから最大4つの子音がつながります。4つは少ないですが。
 go(0), egg(1), friend(2), milked(3), texts(4)

Onsetの部分の子音の数は、0, 1, 2, 3つです。最大3つです。子音が2つ組み合わさる場合、アルファベットの子音がランダムに組み合わさるのではなくて、 ほとんどの組み合わせは禁止されています。たとえば、bd-, bg-, bm-, mk-などなどです。つまり、blickという組み合わせは許されますが、bnickという組み合わせは英語にはありません。

(組み合わせは、きわめて限定されています。『単語耳]第2巻は56パターンに集約しました。このことを知ると、 英単語は音からどんどん記憶できます。)

10 Suprasegmentals

11 Speaker and hearer

 

感想

Michael Ashby教授の講演は、日本人の苦手な発音のデモをしながら、とても分かりやすいものでした。サマー・コース(イギリス)では、 日本人を含む、多くの外国人に、音声学と、英語の発音指導をしています。外国人に教えている経験が豊富なので、 具体的で分かりやすい講義でした。そこで、外語大生が持っていたこの本を知り、購入して読んでみました。

絵が豊富で、発音の波形も豊富なので、音声学の入門書として、オススメします。

単語の発音は基本的にBritish Englishです。英米の発音の基本的な違いを少し知っていれば、問題なく読めるので、問題ありません。英語の音節 Syllableの解明をしていますが、これも英米の両方のつづりと発音に使えます。