Adrian Akmajian, Richard, Ann, robert

2010/5/28
2008/10/28

Linguistics  SIXTH EDITION
An Introduction to Language and Communication

Copyright 2010
* * * * * * *
おすすめ度★★★★★

感想:
 私のLingusiticsの教科書として、1990年代から20年近く愛読している本です。
英語の先生、英語をマスターしようとしている学習者が必読の本だと思います。

 

1995年に第4版が出版されました。だいたい6年おきぐらいに改訂版が出ていました。
2001年に第5版が出版されてから、改訂が行なわれなくなりました。
著者の高齢化に伴い改訂が出来なくなったのでは?と推測していまた。

と思っていたら、なんと2010年版、第6版 SIXTH EDITIONが発売されました。
さっそく、取り寄せて読んでみました。

 この本は、いつ読んでも内容はぜんぜん古さを感じさせません。
日本人で英語を教える立場にある方には読んでおいたほうが良いと思います。
なぜならば、著者たちは、過去のLinguisticsに関する文献をかなりの数読み
こなしていて、そのエッセンスを本書で伝えようとしているからです。

著者は、以下の4人の共同です。今年はいったい何歳になったのでしょうか?
おそらく、第7版は発売されないかもしれません。だれかが引き継ぐのかな?
●Adrian Akmajian
●Richard A. Demers
●Ann K. Farmer
●Robert M. Harnish (1972年に、MIT PhD Philosophy取得。
   2005年から Full Timeで教えることからはリタイア)
出版社は、 The MIT Pressです。



本書は、実質20年近くかけて書かれたと考えても良い、Lingusiticsの入門書です。
The University of Arizonaで教科書として使用して、先生や学生からも多くの
フィードバックを取り入れて改訂を続けています。
Lingusiticsと言うタイトルですが、実質はEnglishの分析を行っています。
他の言語がどうなっているかの例として日本語が英語と対照的に取り上げられたり
します。

 全体を通して、英語とは何であるか、どうして話者が話したことを聞き手が理解する
ことが出来るのかを解明しようとしています。したがって、本書に書かれていることを
充分に身につけることが出来れば、自分の英語の学習の次のステップをどうしたら
良いのかと言うヒントがたくさん見つかります。

 An Introductionと副題があります。入門用にいろいろなトピックが網羅されていて、
言語学で何が起きているのかが書かれています。
 各章の最後にたくさん reference本の紹介があります。(referenceの宝庫でもあります)
詳しくはそちらを読んでくださいと誘導しています。まず本書をひととおり読んでおいてから
個々の言語に関する書籍を読むと、理解が楽になります。
 言語学の専門の人によっては、なーんだ入門だよ! と評価が下がると思われ
ますが、私のは本書がおいしいところをサマライズしてくれているようで、
好意的に評価しています。

 また、各章の終わりに演習問題があります。本文を良く読み込んでいれば解けると
思われる問題ですが、私はやっていませんが、やれば役に立ちそうです。

 私には、人間が言葉を理解することが不思議に思われます。

日本語も英語も理解できるということはどういうことなのか?
脳の中では何が記憶されていてどのような処理が行われているのか?
 この本でも、随所に脳の中の動きを探る記述があるので、共感できます。
ただし、まだ理解は始まったばかりだという記述も目立ちます。

 以下の紹介は、ながくて冗長かもしれませんが、本書に書いてある内容のメモの
つもりで各章ごとに記録してあります。(不要ならば飛ばしてください)
 おもに私のメモです。将来、本書が見つからなくなっても、
これを読めば要点が分かるので・・・。
(我が家では、本がいなくなることがある)

PART I THE STRUCTURE OF HUMAN LANGUAGE

Part1では英語の構造を徹底的に解明します。Part2では、人はどのように英語を理解して
いるのかと言う脳の中の認知方法に踏み込みます。
Part2が非常に興味深いのですが、Part1も充実しています。


Chapter 1:  What Is Linguistics?
 
 Linguistは、多くの言語を話したり、文法の質問に答えてくれる人という、あいまいな認識が
一般的ですが、Linguisticsのねらいは「言語の性質は何か? コミュニケーションはどうして可能か?」
という設問に答えようとするものです。そのためには、広範囲なトピックスを扱う必要があります。

 Linguistとしての Noam Chomsky(Wikipedia)の3つのモデル(Figure 1.1, 1.2 and 1.3)が
第1章の中心です。

Figure 1.1 COMPETENCE MODEL
 話されたことを理解する。相手に理解できるように発話する。
モデルが扱うのは、SOUNDS, WORDS, SENTENCES, MEANING, USE。
What is the nature and structure of human language?
という問いに答えようとするもの。

Figure 1.2 PERFORMANCE MODEL
 話者が、言葉の知識を使って、実際に話すことを文法を中心にモデル化。
このモデルには、Figure1.1の言葉の要素も含まれる。
How is language put to use in thought and communication?
という問いに答えようとするもの。

Figure 1.3 ACQUISITION MODEL
 言葉を使う経験の蓄積により、言語の能力が高まるというモデル。
How do language and our ability too use it develop?
という問いに答えようとするもの。

 章の最後に、この本のめざそうとするものとして、以下のコメントがあります。
私がこの本を愛読している理由の一つです。

「人間の言語をよりふかく理解することにより、人が考えるプロセスの理解が
深まることを願っている。言語の解明は人間の心の解明につながっている」
In this view the study of language is ultimately the study of the human mind.

(私の場合は、人間の心がどのように言語を格納して理解しているかを
把握することにより、第2言語の習得の効率を上げることにつながると
考えています。)



Chapter 2
Morphology: The Study of the Structure of Words


 我々はいくつ単語を知っているか?学校に入る子供は、13,000語。
高校卒業時には、60,000語、知的大人は120,000語

 この数には人名、地名も含まれます。
Anyone who has mastered a language has mastered
an astonishingly long list of facts encoded in the form of words.
このリストをLexiconと言います。
(Steven Pinker 1999『Words and Rules』の最初の方に出てきます)

Morphology:(言語形態論) The study of the forms of words,
in particular inflected forms. (ODE)
Morphologyの狙いは、以下を解明すること。
What are words?
What are the basic building blocks in the formation of complex words?
How are more complex words built up from simpler parts?
How are individual words of a language related to other words of the language?


 Morpheme(形態素)の説明があります。
単語の頭に付くのがprefixes,。単語の語尾に付くのがsuffix。
なにも付いていないのは、free morphemeです。例は tree。
複数形の s の付け方のルールが検討されます。
treesはsuffixがついています。

 英語の場合のMorphologyは動詞や名詞の語尾に付くもの一般です。
典型的なものは、名詞の複数形の s の付け方、過去形・過去分詞形の-edの
付け方、発音方法などです。
Lexiconは単語のリストです。LexiconにMorphemeを加えたものが、
実際の文の中で使われている単語となります。

 Part-of-speech categoriesとは、名詞・動詞などの品詞のこと。
Lexiconはたんにランダムなリストではなく、単語のsubgroupsにグループ化される。

 英語に新しい単語がどのように加わるのかも語られていますが、省略。

suffix -ableの付く単語、付かない単語の考察など、面白い。
-less, -ishはどの単語について、どれに付かないか。



Chapter 3:
Phonetics and Phonemic Transcription

 
 第3章は、優れた発音のサマリーがある章です。子音・母音の米語発音が
ひとつひとつコンパクトに説明されています。
(英語の発音を教える人は、ひととおり理解しておいてほしい。)

 文章は、アルファベット(一つ一つが独立)で書くことができるが、
speechは、連続した音がほとんどで、アルファベットのようなdiscrete symbolsの
ようにはいかない。たとえば beeを発音するときには、[b]を発音しているときに
舌はすでに[i]の位置に来ている。同じくbooの[b]を発音しているときには、
くちびるは丸められて次の[u:]の形にしている。 ←冒頭にあります。

 通常の呼吸と、Speechの呼吸の4つの違い
1 3〜4倍の息をはく
2 吸う息ははやく、吐く息は深く
3 話しているときは、息継ぎの回数は減少
4 エア・フローは口によりさまざまの抵抗を受ける

米語の子音
Stops:
/p/   A voiceless bilabial stop
/b/   A voiced bilabial(両唇の) stop
/t/   A voiceless alveolar(歯ぐき) stop
/d/   A voiced alveolar stop
/k/   A voiceless velar(軟口蓋) stop
/g/   A voiced velar stop

Fricative:
/f/   A voiceless labiodental fricative
/v/   A voiced labiodental fricative
/θ/    A voiceless (inter)dental fricative
/   A voiced interdental fricative
/s/   A voiceless alveolar fricative
/z/   A voiced alveolar fricative
/  A voiceless alveopalatal fricative
/   A voiced alveopalatal fricative
/h/   A voiceless "glottal" fricative

Affricates

/  A voiceless alveopalatal affricate
/  A voiced alveopalatal affricate

Nasals

/m/  A bilabial nasal
/n/   An alveolar nasal
/  A velar nasal

Liquids

/l/   An alveolar liquid


Glides

/w/   A bilabial (velarized) glide
/wh/   A bilabial (velarized) glide (with a voiceless beginning)
/r/ɹ/   An alveolar glide (本書はrの音に対して逆記号を使用)
/j/   An alveopalatal glide

米語の母音

/I/    A lax high front vowel
/e/ɛ/ε/    A lax mid front vowel (本書は3の逆記号使用)
/æ/    A lax low front vowel
/u/   A lax high back vowel
/   A lax mid back vowel
/   A lax low back vowel
/   A lax low back

Reduced Vowels

/   A mid back vowel, schwaと呼ばれる

iにストライクアウトの記号 barred-i   A high back vowel

/  これはSPECIAL TOPICSとして、3.3章で扱います。
  searは1音節、seerは2音節なので発音が違うと詳しく解説があります。

次に Tense (Long) Vowels and Diphthongsの説明がありますが、このぐらいで省略します。 


Phonetic Variations on a Phonemic Theme
本書では、音素phonemeを/ /で囲っています。たとえば、/t/   /d/など。

Types of /t/ in English
 音素/t/は常に同じ発音がされるのではなく、少なくとも3種類あります。
tinのaspiration (語頭は破裂させる)
stintのsの次のtは unaspirated (語中は破裂させない)
kitのtは frequently unreleased (語尾は舌は上のくちびるに触れるが、即座には解放されない)

Consonant Clusters
 2つの子音の組み合わせが限定的であることが示されています。短い記述で残念ですが。
許される組み合わせ:
br, dr, gr, bl, gl, pr, tr, kr, pl, kl
許されない組み合わせ(単語の最初では。)
bt, nk, gb, pb, pt, pk
つまり、2つのstop(破裂)音はダメなど。
(単語の中では許される。例:napkin)

以上のような、発音全般に関する解説がP68からP104までにコンパクトに収められています。

次は、第4章「Phonology」です。

続く