James Barron

2007/4/15

PIANO

Copyright 2006
* * * * * * *
おすすめ度★★★★★    (2007/3/21読了)

物語:
これは、ノンフィクションのGRAND PIANO製作記録です。1台の Steinway Concert Grand Pianoがどのようにして作られたのかが対象です。 取材の場所と時間は、Steinway & Sons factory in New York City in 2003 and 2004。

著者のJames BarronはThe New York Times, Staff Reporterです。そして相当な腕前のアマチュアPianistです。

この本を読んだ理由は、我が家にはアップライト・Pianoがありますが、家族が使う稼働率が非常に高いので、グランドPIANOを購入することにしたからです。そのまえに、グランドPIANOを選ぶために、技術的にどこに着眼すれば良いのかを知りたかったのがきっかけです。

Steinwayのpianoにはすべて製造番号がついています。この本のコンサート・グランドはK0862です。長さは8フィート、11-3/4インチです。

K0862は2003年3月11日の午前9時45分に作り始められます。最初に描かれる作業は、Rim-bending、つまり、グランド・ピアノの外側フレームを、長い板を曲げて作ることです。フレームつまりRIMは厳選された17枚の長いMaple板を重ねて 糊付けしながら曲げて作られます。曲げるのは6人の男性と、450ポンド/インチの圧力をかける機械。9:45amに曲げ始めて9:59amに終了します。この14分が板を曲げながらノリが乾く許容時間です。RIMはそのまま圧力がかけられたままに置かれます。Steinwayが優れた音を出すのはこの工程のおかげだそうです。

本は、途中で、PIANOの歴史やSteinwayの歴史を語ります。

次の工程は、Bellyingです。この工程でSounding board(共鳴板)と、Bridgeをとりつけます。Bridgeは共鳴板の上にあり、弦をささえる。ギターやバイオリンの弦のつけ根付近にあり、弦をささえる木製の駒です。

Cast-iron plateは現在はSteinwayの外注で作られます。技法はNo-bake casting。このサイズだと、1台を作るために1日が必要です。家庭用のグランドは、1日に40-50個作成できるそうですが。Plate(鉄)にはSteinway Gold色の塗装がされます。重さ350ポンドのPlateはロープでつられて、RIMの中におろされます。PlateとRIMをぴったりあわせるために、黒い粉を使ってPlateがどこに接触し、どこに接触しないかをPlateを下ろしたり上げたりしながらしらべます。RIMとPlateを合わせるための削り込みは職人が手作業で行います。歯医者が、歯をはめては、削り、はめては削る作業に似ています。Salvodonはこの作業を9:45amに始めて、11:54にほぼ終わり、完璧にはめ込まれます。次に20個の取り付けネジ用の穴を開けます。

Belling(腹ばい)と呼ばれる作業

Sounding board(共鳴板)は、Plateの下に位置します。上記のPlateをぴったり枠にはめてから、もう一度だけ、Plateを枠からはずして持ち上げます。そうしておいて、Sounding board(共鳴板)を枠に取り付けます。よく響く音はSounding boardの性能によります。枠にぴったりはめるために、共鳴板は、手作業で削られます。安いグランドピアノでは、共鳴板と外枠のどこかには隙間があり、詰め物を入れますが、Steinwayには隙間がありません。職人技で削って、ぴったりはめ込みます。共鳴板は微妙に湾曲させて、共鳴度を最大にさせます。あとの工程で、弦を張ると、枠との間に隙間があると、共鳴板が平らになり、緊張が欠けて、共鳴度が落ちるそうです。Steinwayではこれを許さないので、よく響くPianoが作られます。Sounding board(共鳴板)を削ったあとは、全てのPianoの共鳴板に互換性はなくなります。家庭に持ち込まれたPianoの共鳴板にヒビが入ったから、別のものに交換というわけには、簡単にはいかないのです。

Pianoの弦は、3箇所で支えられます。弦の緊張を作っているのは、鉄の鋳物で弦の両端を支えているピンとネジです。弦の振動の長さを決めているのは、木製のBridgeの上に打ち込まれたピンです。これが3箇所目です。弦の両端を固定した鉄の鋳物の中央には空間があり、そこに木製のBridgeが、キーボードとは反対側の、弦の固定場所の近くに、弦を少し持ち上げるように共鳴板に取り付けられます。このBridgeが弦を押し上げる高さは、職人が0.1mm単位の感覚で削りだします。持ち上げすぎると共鳴板が押し下げられすぎて、窒息してしまい、よく共鳴しません。高さが足りないと、弦の振動が共鳴板に共鳴しません。

Bridgeの上には弦を張った時に、弦の振動の長さを決めるために、釘のようなピンを手作業で打ち込みます。Model Dには弦が全部で243本あります。Pianoのキーは88です。つまり88音です。1つの音に対して、鋼鉄の弦が3本張られます。数が合わないですって? はい、一番低音の8音は1つの音に対して、極太のピアノ線が1本だけ使われます。次の5音は、太いピアノ線が2本ずつです。つまり、75音にピアノ線が3本ずつ使われています。したがって、手作業でBridgeに打ち込むピンの数は486本です。

以上の一連の、Sound Boardに対する作業をBelling(腹ばい)と呼びます。その理由は、削りだしの作業は、ほとんんどの時間、Sound Board上に腹ばいになって行われるからです。

・・・ ・・・

このあと、キーボードの作りこみ、キーの高さをそろえる職人芸など、まだまだ作業がたくさん続いて、それぞれ面白いのですが、このぐらいにしておきます。

感想:

読んだ後の感想をひと言で言うと、「職人芸だ!」
PIANOは大きな楽器ですが、その音を支えていたのは、繊細な職人芸だったことが良く分かります。

私は、オーディも趣味ですが、我が家に来たグランド・ピアノの音を聞くと、どのようにすぐれた、ハイエンドのオーディオ機器で再生する音も、生の音にはかなわないなー、と強く感じました。

しかし、オーディオも、ハイ・エンドの商品になると、感動を与えてくれるものがあります。最近発売された、アスキー新書の『やっぱり楽しいオーディオ生活』を読んで、職人技が長い歴史を持って実践されていることを知りました。この本はとても面白く読めました。オーディオ製品で注目したのは、海外製品でなく、あのソニーにも、職人技の高級スピーカーSS-AR1があることを知ったことです。いつか音を聞いてみたい。

グランドピアノのオーナー、およびこれから買おうとしている人には必読書です。